辛さを感じる仕組み
辛いものを食べたとき、なぜ私たちは「辛い」と感じるのでしょうか?
実は、辛さは味覚として感じるものではなく、実際に感じているのは「痛み」です。
「辛い」という感覚は、辛味成分が舌や口内の痛覚や温感受容体を刺激することで起こります。
この受容体が辛味成分に触れると、脳に「痛い」、「熱い」や「冷たい」と感じる信号を送ります。
これが辛さを感じるメカニズムなのです。
つまり、辛味は味覚の五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)とは異なり、化学的な刺激によって認識されているのです。
では、具体的にどのような成分がこの辛さを引き起こすのでしょうか?
辛味成分の化学構造
辛味成分には、いくつかの主要な化合物がありますが、それぞれの化学構造によって異なる刺激を与えます。
代表的な辛味成分には、唐辛子のカプサイシン、カラシやワサビのアリルイソチオシアネート、コショウのピペリンがあります。
これらの分子は、特定の痛覚受容体に結合し、辛味を引き起こしますが、揮発性や吸収速度などの違いから、異なる種類の辛さが感じられます。
例えば、カプサイシンは脂溶性 (水より油に溶けやすい) のため、水や唾液で流れにくく、口の中に長時間留まりやすい性質を持ちます。
そのため、唐辛子ではジワジワと辛さが持続します。
一方、アリルイソチオシアネートは揮発性 (気体になって飛んでいきやすい) が高く、瞬時に鼻や目を刺激する特性があります。
唐辛子の辛味成分「カプサイシン」
唐辛子の辛味成分として最もよく知られているのが「カプサイシン」です。
唐辛子の入った料理を食べると、独特の辛さがジワジワと広がる感覚がありますが、これがカプサイシンの作用です。
カプサイシンによる辛味のメカニズム
科学的には、カプサイシンは痛覚受容体であるTRPV1 (タンパク質の一種) と結合し、脳に「痛い」「熱い」という信号を送ります。
その結果、強烈な辛さを感じることになるのです。
この受容体は通常、熱によって刺激されますが、カプサイシンが作用すると、まるで熱が発生したかのように錯覚させるのです。そのため、辛いものを食べた時に「熱い」と感じることが多いというわけです。
ちなみに、辛さの度合いはスコヴィル値(SHU)で表され、これはカプサイシンの含有量に基づいて測定されます。
例えば、タバスコソースは約2,000 SHU、ハバネロは200,000 〜 450,000 SHUと言われています。
世界一辛いとされるキャロライナ・リーパーは1,500,000 ~ 2,200,000 SHUとされていますから、想像を絶する辛さなのでしょうね。
コショウの辛味成分「ピペリン」
コショウの辛さを生み出している成分は「ピペリン」です。
ピペリンは、唐辛子のカプサイシンほど強い辛味を持っていませんが、穏やかでスパイシーな辛味で料理に深みを与える独特な風味を持っています。
ピペリンによる辛味のメカニズム
ピペリンによる辛さを感じるメカニズムは、唐辛子の辛味成分 カプサイシンが作用するのと同じTRPV1受容体です。
そのため、ピペリンによる辛味はカプサイシンの辛さと似た感覚を引き起こします。
ピペリンによる辛さは、カプサインと比べて持続時間が短いのが特徴で、一度に大量に摂取しても、辛さがすぐに引いていくことが多いです。
この特徴が、料理にコショウを加えたときのアクセントとして、他の食材の風味を引き立てているのですね。
カラシとワサビの辛味成分「アリルイソチオシアネート」
カラシやワサビの辛さは、唐辛子の辛さとは異なり、短く鋭い刺激を与えます。
これらの植物に含まれる辛味成分は「アリルイソチオシアネート」という化学物質です。
カプサイシンとは違い、アリルイソチオシアネートは揮発性が高いため、鼻や喉の粘膜を刺激することで独特の「ツーン」とした辛さを感じさせます。
アリルイソシオシアネートによる辛味のメカニズム
アリルイソチオシアネートが辛味を感じさせるメカニズムは、冷感を感じる受容体を刺激することが関連しています。
具体的には、アリルイソチオシアネートが鼻や喉の粘膜に触れると、TRPA1受容体という冷感に敏感な神経を活性化させます。
この受容体は冷たい温度や刺激物に反応し、その信号が脳に送られることで、私たちは「ツーン」とした鋭い刺激と同時に冷感を感じるのです。
この感覚は、カプサイシンによる「辛さ」とは異なり、より爽やかで鋭い刺激として認識されます。
アリルイソチオシアネートは植物が自らを守るために生成する防御物質で、虫や草食動物に対して強い忌避効果 (特定の物質が昆虫や動物を遠ざける反応) を持っています。
また、この成分には抗菌作用もあり、食品用フィルムや防カビ剤などにも利用されています。
山椒の辛味成分「サンショオール」
山椒(サンショウ)は、日本料理や中華料理でよく使われるスパイスで、その独特な「しびれる」辛味が特徴的です。
このしびれを引き起こす成分は「サンショオール」という物質です。
山椒を食べると、辛さというよりも口や舌がしびれるような感覚があり、この刺激が山椒の大きな特徴となっています。
サンショオールによる辛味のメカニズム
サンショオールが引き起こす辛味(しびれ)は、他のスパイスの辛味成分であるカプサイシンやピペリンとは異なります。
サンショオールはカこれまでに登場したTRPV1やTRPA1受容体を刺激し、舌や口内にしびれるような感覚が生じ、辛さとはまた違った「しびれ」を感じるとされています。
また、別の研究ではサンショオールは特定のカリウムイオンチャネル (細胞の膜を通してカリウムイオンを出入りさせる小さな孔) を活性化することで、神経細胞からカリウムイオンが流出し、神経の興奮が抑制される。
これが、しびれや冷感を引き起こす原因であるとの報告もあります。
辛さを和らげる方法:科学的な対策
辛いものを食べた後、口の中のヒリヒリ感をどうにかしたいと感じることがよくあります。水を飲むのはあまり効果的ではありません。
なぜなら、カプサイシンやピペリンは脂溶性であり、水に溶けにくいからです。
効果的な方法として、牛乳やヨーグルトなどの乳製品を摂取することが挙げられます。
乳製品に含まれる乳製品に含まれるカゼインというタンパク質が、辛味成分を包み込んで辛さを和らげる効果があります。
また、糖分を含むものも辛さを和らげる効果があります。
砂糖やはちみつを少量摂ることで、辛味成分の刺激が和らぐことが知られています。
まとめ
辛味成分には、唐辛子のカプサイシン、コショウのピペリン、カラシやワサビのアリルイソチオシアネート、山椒のサンショオールなどがあり、それぞれ独特の辛さを持っています。
辛さは痛みや熱として感じられるという辛味が認識される科学的なメカニズムを理解することで、辛味に対してより一層興味を持ってもらえると嬉しいです。
辛いものが好きな人も、そうでない人も、ぜひ自分に合った辛味成分を見つけ、食の楽しみを広げてみてくださいね。
参考文献・参考資料
- 生理学研究所. (2015). 「カプサイシンが引き起こす痛みの増強メカニズム −TRPV1活性化はアノクタミン1の活性化を引き起こす−」. 取得先: https://www.nips.ac.jp/release/2015/04/_trpv1.html
- 一般財団法人 日本食品分析センター. 「植物の辛味成分について」. ニュースレター vol.3 no.21. 取得先: https://www.jfrl.or.jp/storage/file/news_vol3_no21.pdf
- 日本食品科学工学会. (1994). 「植物由来の辛味成分の化学的特性」. 日本食品科学工業学会誌, 41(9), 595-601. 取得先: https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1962/41/9/41_9_595/_pdf/-char/ja
- レンゴー株式会社. 「抗菌防カビ剤におけるワサビ由来の化学成分」. 取得先: https://www.rengo.co.jp/products/functional/wasav.html
- Nature Neuroscience. (2008). 「四川省の唐辛子由来の辛味剤は、2孔のカリウムチャネルを阻害することにより感覚ニューロンを興奮させる」. 取得先: https://www.nature.com/articles/nn.2143
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