尿素がハンドクリームに入っている理由 効果は?

ハンドクリームに尿素が含まれている理由 身のまわりの科学
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ハンドクリームの成分表示をみると「尿素配合」と書かれているものが多いですよね。

でも、ハンドクリームに尿素が入っている理由やメリットについて考えると・・・「?」ではありませんか?

この記事では、ハンドクリームに尿素が含まれている理由と効果、そもそも尿素とはどのような物質なのか、ハンドクリーム以外の使い道などについて見てきます。

そもそも尿素とは

尿素とは

  • 炭素原子 (C)  1
  • 水素原子 (H)  4
  • 窒素原子 (N)  2
  • 酸素原子 (O)  1つ から構成される。「CH4N2O」で表される化合物です。

動物は摂取した食物中に含まれる窒素原子を体内で有効利用※ (代謝) した後、不要になった窒素原子を何らかの形で体外に排出する必要があります。

ヒトをはじめとする哺乳類の場合、摂取した窒素原子は最終的に体内で尿素に変換され、尿と一緒に体外に排出されます。

尿素は体内で役目を終えたタンパク質や核酸が分解されることで生じる窒素原子 (窒素分) を体外に排出する役割を受け持っています。

つまり、尿素とはその名の通り「尿のもと (素) 」になる成分のひとつなのです。

尿素の構造と構成原子

尿素の構造と構成原子

尿素は哺乳類の他にも、両生類の尿中にも含まれていますが、尿素自体は水に溶けやすい性質を持つ無色の結晶です。

ハンドクリームにも含まれる尿素ですが、主な用途は「窒素肥料」や後に紹介する「尿素樹脂」などの工業原料として、大量に消費されています。

ハンドクリーム中の尿素の効果は?

ハンドクリームの成分のひとつとして尿素が含まれている理由は、尿素の持つ

保水、保湿効果 にあります。

尿素は水 (H2O) と「水素結合」を形成する性質 (= 水となじみやすい) があります。イメージとしては、尿素が水素結合によって水分子をつかまえ、自分の近くに留めているといった感じでしょうか。

この性質のおかげで、尿素配合のクリームを塗っておけば、尿素がしっかりと水分子をつかまえ、皮膚に水分を保持し、肌の乾燥を防ぐ というわけです。

尿素の保水・保湿の仕組み

尿素の保水・保湿の仕組み

また、尿素は保水・保湿効果の他にも、角質化して硬くなった皮膚を柔らかくする効果を持っています。

これは尿素にはタンパク質を分解するはらたきがあるためです。

角質は”ケラチン”というタンパク質でできていますが、タンパク質は分子中にCO-NHという部分 (構造) をたくさん持っており、お互がこの部分で水素結合することで、角質としての組織を形成しています。

ところが、ここに同じく水素結合を形成することができる尿素がやってくると、タンパク質同士の水素結合の間に尿素が割り込み、タンパク質の構造を壊してしまいます。

その結果、角質 (タンパク質) が溶けて柔らかくなるというわけです。

尿素が角質を柔らかくする仕組み

尿素が角質を柔らかくする仕組み

ハンドクリームの尿素はどこからきている?

尿素がヒトや動物の尿に含まれていると説明しましたが、ハンドクリームに含まれている尿素は、これらの”おしっこ”から取り出したものではありませんので、ご安心ください。

ハンドクリームや肥料、樹脂に使用されている尿素は、アンモニア (NH3) と二酸化炭素 (CO2) から化学的に合成されています。

一般的な尿素の合成法は、アンモニアと二酸化炭素を原料とし、温度と圧力をかけた200℃120400気圧という高温高圧の条件で合成するというものです。

尿素の合成方法

尿素の合成方法

ハンドクリーム以外の尿素の用途

植物を育てる化学肥料

タンパク質を構成するアミノ酸や、DNA、光合成に必要なクロロフィル (葉緑素) はいずれも窒素原子 (N) を含む化合物からできていますが、植物は空気中の窒素 (N2) をそのまま体内に取り込むことができず、土の中 (土壌:どじょう) から窒素源を取り込んでいます

また、土壌中の窒素量は植物の生育初期に及ぼす影響が大きく、植物を元気に育てるためには豊富な窒素源が必要となるため、窒素系肥料が使用されます。

尿素は分子中に2つの窒素原子を含み、即効性化学肥料※として農業分野で広く利用されています。

与えるとすぐに効果が現れるが、効果が長続きしないタイプの肥料

他にも、冷却パック、凍結防止剤、樹脂にも

尿素を水と混ぜた際に吸熱反応を起こす性質を利用した携帯用の冷却パックや、尿素には金属を腐食 (さび、穴の発生など) する性質がないことを利用し、空港で使用される凍結防止剤としても使用されています。

これは、ためです。

一般的に道路などに使用する凍結防止剤には塩化カルシウム (CaCl2) が用いられていますが、塩化カルシウムは金属を腐食作用があるため、些細な金属腐食を大敵とする航空機や滑走路では使用できません。

そのため、航空関係では金属腐食する心配のない尿素が凍結防止剤として利用されています。

この他にも、尿素の用途は幅広く、樹脂、染色助剤、医薬品、有機合成の原料などにも用いられています。

樹脂にも含まれる尿素

尿素はプラスチックなどの身のまわりの樹脂製品にも利用されています。

尿素ホルムアルデヒドを反応させることで得られる尿素樹脂 (ユリア樹脂) は化粧品、医薬品の容器や瓶のキャップ、コップや子ども用食器、ボタンなどの雑貨類、麻雀牌等に使われています。

尿素樹脂の合成

尿素樹脂の合成

樹脂には熱をかけると柔らかくなる熱可塑性樹脂 (ねつかそせいじゅし) と、一旦熱をかけるとカチカチに硬くなり (硬化) 力をかけても変形しなくなる熱硬化性樹脂 (ねつこうかせいじゅし) がありますが、尿素樹脂は後者の硬化性樹脂に分類されます。

尿素樹脂の特徴として、以下のような利点がありますが、

  • 難燃性     :燃えにくい
  • 着色性に優れる :無色透明であるため、自由な色に着色できる
  • 表面硬度が高い :強度に優れる
  • 耐溶剤性    :一般的な溶剤に溶けにくい
  • 電気的特性に優れる:耐アーク性、耐トラッキング性に優れる
  •  

その反面、次のような欠点があります。

  • 耐薬品性が低い :酸、アルカリに弱い
  • 水、熱水に弱い :加水分解という分解反応が起こる
  • 衝撃に弱い   :割れ、ヒビが生じやすい
  • 寸法変化が大きい:乾燥、吸湿による変化が大きい

しかし、何と言っても尿素樹脂の特徴は、価格が安いことです。

多くの樹脂・プラスチックは石油を原料にしていますが、尿素樹脂はこの前に紹介した合成法で安価で大量に供給可能な「尿素」が原料です。

そのため、尿素樹脂自体も安価となり、酸やアルカリにさらされない、衝撃がかかりにくい容器や瓶のキャップ、ボタンなどの用途で活躍しています。

尿素は化学の歴史上、最も重要な化合物のひとつ

身のまわりでも幅広く利用されている尿素ですが、化学の歴史においても無機化合物から初めて合成された有機化合物として、化学の歴史上、最も重要な化合物のひとつです。

詳しくは “【知識ゼロからわかる超解説-科学用語】有機化合物と無機化合物” で内容をまとめていますが、簡単に説明すると、

身のまわりの物質は、「無機化合物」か「有機化合物」のどちらかに分類されますが、19世紀中頃までは、生体に関係する「有機化合物」は生命のみが作り出せる物質で、砂や鉱物などを形成する「無機化合物」からは作ることができないと考えられていました。

しかし、1828年にドイツ人科学者 ウェーラーが無機化合物のシアン酸アンモニウムから、有機化合物の尿素を合成することに成功したというものです。

まとめ

  • 尿素がハンドクリームに含まれるのは、尿素が水となじみやすく保水・保湿効果があるから
  • 尿素は、アンモニア (NH3) と二酸化炭素 (CO2) から化学的に合成されている
  • 尿素はハンドクリーム以外にも、肥料、樹脂、染色助剤、医薬品、有機合成の原料などに広く利用されている
  • 尿素は無機化合物から初めて合成された有機化合物であり、化学の歴史においても重要

参考

  1. 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC)   用語解説「尿素合成」   https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1001404/1001432.html
  2. マイナビ農業 農業に不可欠な窒素肥料の効果と働き   https://agri.mynavi.jp/2018_06_03_28564/

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